なぜ、「バス法」という効果的でない歯の磨き方が広まっているのか! 忖度と無関心の連鎖。

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歯の磨き方として効果的でも、優れてもいないのに 歯磨きの方法としてバス法がこれほどまでに広まっている現象について、分かっている事象をもとに話してみたいと思います。

 
前記事です。バス法の基礎知識はコチラで。

hamigaki8020.hatenablog.jp

 



Charles C. Bass 先生

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このバス法を提唱した先生です。まず、言っておかねばならないのは バス先生は悪くない です。バス先生は1875年生まれ(143年前!)のアメリカ人で、ルイジアナ州 ニューオリンズにあるチューレン大学医学部の教授でした。初期はマラリアなどの熱帯医学に貢献し、のちにチフスの研究でも実績を残すなど とても有能な病理学者でした。
重要なのは、彼は歯科医師ではなかったという事です。

バス先生がもう還暦の頃の話です。虫歯の治療のために歯科医院を訪れた際、「歯を磨くと歯肉より出血するので歯槽膿漏ではないか」 と尋ねたそうです。これに対しての歯科医の答は、「あなたの歯肉は以前から歯槽膿漏であると気づいていた 」だったそうです。そこでバス先生は なぜそのことを以前に説明してくれなかったのか? また、 なぜその治療をしなかったのかについて問いただし、あらためて歯槽膿漏の処置を依頼しました。ところが今度は、現時点では これ といった特効薬もないし、また特別な治療法もないと言われてしまったのです。
当時は、この病気は難治、不治の疾患で、究極の治療法は抜歯のほかにないと思われていました。
バス先生は その歯科医師に対して非常に憤概したと同時に、これまで あまり研究や努力がなされていない歯科医学に対して非常に落胆を覚えました。これが契機となって一念発起し、歯周病の研究を始めたという事です。
その後バス先生は、多くの研究論文を発表し、歯周炎の原因が歯の周囲に付着するプラーク(細菌、歯垢)であるという局所説を1940年代に提唱し、それを完全に除去することが、歯周病の予防につながると主張しました。 しかながら、当時の病因論の主流が全身説であったために、彼の仕事はほとんど評価されず日の目を見なかったのです。

(注、歯槽膿漏=歯周病です。歯槽膿漏は昔の言い方で、重度の歯周病のイメージです) 

ここで、ちょっと話が逸れます。
実は、1960 年代初めの頃まで歯周病の原因は分かっていなかったのです。この時代は歯垢(プラーク)が歯周病に関与することは認め始められたものの、スケーリング(歯石取り)や手術、固定などの局所療法に努めてもすぐ再発するので、体質というような未知の全身因子があるのではないかと考えられていました。
なので、原因は全身的因子によるものが主で 治療は栄養状態の改善や薬剤投与が主流でした。その後、全身説から次第に口腔内細菌による病因論が提唱されるようになり、1964年には Keyes と Jordan が、歯周病が伝染することから原因は細菌であると示唆しました。さらに、1965年デンマークのHarald Loeによる「実験的歯肉炎」の研究を通じ、やっと歯肉炎の原因が細菌性プラークであることが明らかになってきたんです。
このLoe先生の実験は、12人の学生を募り「歯ブラシをはじめ口腔内を清潔にする行為を当分の間一切行わないように」という指示を出し、そして、10~21日後 学生たちの口の中を調べてみると、全員が歯肉炎を発症していたというものです。(まあ当然ですが...)
歯肉炎を確認したのち、歯磨きを再開したところ今度は2~3日で全員が元の健康な歯肉に戻ったのです。(当然です...)

このLoe先生の「2~3週間 歯磨きをストップすると、蓄積したプラークによって健全な歯肉にも歯周炎の前駆症状である歯肉炎が起こる」という実験から歯肉炎の原因はプラーク(細菌)であることがはっきりしてきました。そして、歯肉炎の治療には細菌を除去すること、つまり歯磨きが効果的であることも分かったのです。
このLoe先生等の報告が引き金となって、1960年代の後半から1970年にかけて、多くの歯周病学者達は歯肉炎や歯周炎の原因であるプラークについての研究発表を次々と行ないました。その結果、1969年にニューヨークで開催された国際プラーク学会で、歯周炎の原因がプラークであるという局所病因論説が これまでの全身病因論説を覆えして主流となったんです。
(アポロ8号で人類が月を周回したのが1968年ですから、「細菌が歯周病の原因」というこんな基礎の基礎の解明でさえ凄く遅かったんですね)

こうしてバス先生の数々の研究論は、1970年の初期になってはじめて約20年ぶりに全米の歯周病専門医に読み直され、彼の説が正しかった事が再認識されたのです。そしてバス先生が考案発表したパーソナル・オーラルハイジン法(自分で行う口の衛生を保つ方法、歯磨きですね)、その中でも特にハブラシによる歯と歯肉の間の清掃法はバス先生の名前に ちなんでバス法と呼ばれるようになったのです。このとき、バス先生は御年95歳。なお、バス先生は生涯自分の歯を残し この後100歳まで生きられました。


・歯の磨き方としては 間違っていると思うバス法が推奨される訳


バス先生は、歯肉炎、歯周病が細菌によって発症することを発表し、具体的な予防法として、歯と歯肉の境目や 歯間の部分をハブラシとデンタルフロスを用いて出来る限り清潔にする清掃法を発表しました。 ここで注目すべきは、バス先生は主な清掃道具はフロスであると思っているところなんです。実際に1948年の医学雑誌でも
「予防・口腔内のコントロールのためには、歯ブラシとフロスですべての歯の表面からプラークを除去する必要がある。フロスが基本的な道具であり、歯ブラシはそれに付随するものである」と言っています。
歯の清掃の仕方にも言及しているのですが、その熱量はフロスに注がれています。

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フロスに対しては、幾つものイラストまで用意し事細かくページを割いているのですが、ハブラシの使用法については文字だけ。
「Brushing in the right way is important, not how long you brush or what dentifrice you use.
正しい方法でブラッシングすることは重要です。ブラシの長さや歯磨き剤の種類は重要ではありません。」
と とても正しいことも言うのですが、
「 Anyone should be able to brush all of these teeth well enough for all purposes in less than one minute.
誰もが1分以内に歯をあらゆる目的のために磨くことができるはずです」
とか
「I can brush my teeth well in less than a minute.
私は1分以内に歯をちゃんと磨くことができます」
とか、絶対バス先生 歯磨き出来てないよね~ と思わせる記述もあって、バス先生の中では、口腔衛生はハブラシではなくフロスでするものだったようです。
(あながち間違いでもないですが...)

1954年に提唱した歯磨きの方法(のちのバス法)の記述も文字のみで図示とかありません。フロスへの熱のこもり方と違って僅か7行の文章だけなんです。

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「ハブラシの毛は、下の歯の外側に約45度(長軸に対して)の角度で、隙間および歯の間の空間に直接入れる。ハブラシの細かい前後の動きは、柔らかい異物を除去する。 上の歯についても、毛は同じように入れる。 最初にすべての歯の外側(頬側および唇側)で行う」

このハイライトした7行がバス法の全てなんです!
このバス先生が主張していることは 実証的に検討、研究がされた形跡もありませんし、具体的な図示もないし、実証的な裏付けデータもないんです。そもそも歯周病学会に考えが広まるのは20年後ですし、その時のバス先生は引退なされていて95歳。

つまり、バス先生が考えた歯の磨き方はフロスを主体に使う磨き方であって、これがバス先生の中での「バス法」なんです。

バス先生の歯周病の考えは、彼が歯科医師ではなく病理学者であったことと、当時、虫歯予防として推奨されていたフッ化物の添加に否定的だったことを理由に歯周病専門医の多くに受け入れられず、非難さえされたのですが、一部の歯科医師には受け入れられていました。(どんな世界でもそうですが、信者になってくれる人っているんです)
まだまだ、アメリカの一般家庭にテレビが普及していない時代です。因みに、日本でテレビ放送(NHK、日テレ)の放送が始まったのが1953年。当然、インターネットも無いし情報が伝わりにくい時代です。
信者の歯科医師たちは、バス先生の大学まで勉強しに行きます。「歯科の予防はフロス」が信条のバス先生ですが、取り敢えずハブラシについても言及はしているわけで、ここで出てくるのがあの図です。

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バス先生の教えは文章だけなので、信者の方々が忖度して「たぶん、こんなんだよね?」で書いた図を、バス先生もハブラシについての興味があまりないので、「うん、そうそう」ってな感じでしょうか?
歯肉溝(歯と歯肉の隙間の溝)をキレイにするという考えはとても正しいのですが、その方法としては、フロスがメインで ついでにハブラシも、で、「僕 ちょっと思いついちゃった♬」 という程度のものがバス法なんです。バス先生、歯科医師でないし いかにも素人が思いつきそうな歯の磨き方です。
バス先生のフロス愛は留まらず、ついには現在主流の使いやすいナイロン製のフロスまで発明します。(それまでは、シルクにワックスを付けたものが主流でした)
バス先生は、「ハブラシでの歯磨きなんて1分で十分」とか言っちゃうし、ハブラシでのバス法を本格的に検討、研究することはありませんでした。


・その後、50年に渡ってもいまだにバス法な訳

歯周病の専門医たちは、口腔衛生の為にフロスの普及につとめました。アメリカでは1997年に歯周病学会が発表した、歯周病予防のためのスローガン「Floss or Die」(あなたはフロスと死、どちらを選びますか)のキャンペーンがが大々的に公共メディアで展開されたりしました。その結果、デンタルフロスが重要であるという認識が植え付けられ、現在のアメリカでのデンタルフロスの使用者の割合は60.2%だそうです。(ライオン株式会社、2014年)
アメリカへ行った時に、ショップでは歯ブラシコーナーと同じ規模のデンタルフロスコーナーがありましたし、ホームレスの方々が公園でフロスをしているのを目撃したときは衝撃を受けました。
実は、フロスそのものはアメリカでは1800年代初頭からあるんです。ですが、フロスが一般に広まるのはバス先生が第二次世界大戦中に使いやすいナイロン製のフロスを発明した後です。
歯科医師たちは、新しい清掃方法のフロスには興味を示したはずです。ですが、ハブラシによる磨き方はどうでしょう? その歯科医師たちも小さい子供の頃からハブラシは使っていたんです。自己流で! それまでにも、ローリング法やスティルマン法(Stillman1932年)、フォーンズ法(Fones1934年)、等々様々な磨き方がありましたが子供の頃からそんなの知るはずもありません。
たぶんハブラシの使い方って気にしていないんですよね。なので、新しいバス法が出て来ても取り入れたりやってみたりはするけど真剣に本当に磨けるのかとか考えてないんですよ。 こうして、何の疑いも無くバス法がアメリカで広まってしまったんです。アメリカで広まると世界で広まるという流れにのって、日本にもバス法が入って来ました。
日本では、歯ブラシ・メーカーや健康雑誌がパンフレットなどで盛んにイラスト付きで宣伝するようになり、その結果、歯科関係者のなかでなんとなく「バスが良い方法」だと認識されるようになったんです。
日本でも子供の頃から大人になるまでの間に、歯磨きの簡単なレクチャーを受けた経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが 結構 テキトーですよね? 要は「ちゃんと磨いてね~」ってだけの感じがします。

 我々歯科医師も、大学で歯の磨き方の知識は習いますけど、実際に磨き残し0%を達成するようなトレーニングとか受けていません。大学でそんなカリキュラムはありませんし、そもそも、歯磨きを教えられる教授なり講師なりがいないんです。(彼らも習っていないし歯磨きは自己流なので)
大学はアカデミックなんで、もっと高度で複雑で新しい知見を習うところで、小さい頃からやっている歯磨きなんてイマサラ...なんです。

アメリカでも世界各国でもそうですが、歯磨き指導や歯石を取るとかのクリーニングって歯科衛生士の仕事になっているんです。歯科医師が自ら歯磨き指導をしないので、バス法だと上手く磨けないという事に気がつかないんです。と言うより、殆どの歯科関係者の方々って 卒業してから自分の歯を磨いて染め出してみるなんてことは一回もした事がないんじゃないでしょうか? 一回でも染め出してみれば分かるのに、そんなこと考えもしないから分からない。
基本的に歯科衛生士は歯科医師の指導のもとで仕事をしますし、歯科衛生士学校の講師もほとんどが歯科医師ですから、疑わないとそのままバス法なんです。
磨き残し0%を目指すような歯磨きのトレーニングがカリキュラムに入っている大学を僕は知らないです。昔の学生も習っていないし、複数の大学の 今の学生に聞いても全く習っていません。

歯ブラシ・メーカーや健康雑誌の宣伝も、イラストはイラストレーターが指示されて「こんな感じ?」で描いているのでしょうし、そもそも、バス法を取り上げるのも「他のところでもバス法だから!」以外の何ものでもありません。彼らが悪いわけではありません。だって何十年も皆で疑わずに(考えずに)バス法で来たんですから!
歯科医師会のHPも、その時の担当者が他のHPを参考にして作っているんです。担当者に罪はありません。滅茶苦茶 忙しいなか HPの担当者になって、これまでの「バス法が正しい」と信じられている流れの中で、いきなり独断で新しい磨き方なんて載せられるわけがないです。
ハブラシメーカーが、新しい磨き方の理論を構築してHPに出すなんて挑戦的なこともしないでしょう。数多くの歯科医師が信じているバス法を否定するなんて恐ろしいこと出来ないです。
歯科医院のHPって、結構 業者さんが作っているんです。当然、他のHPを真似しますからやっぱりバス法なんですよ。

こうして、忖度と無関心の連鎖でこれまでずーーーっとバス法が生き残ってきてるんです。
歯磨き指導に熱心だな~、っと思われる歯科医師や歯科衛生士さんのHPやブログでは、皆さんバス法を否定しています。歯磨き指導をしっかりと行っている歯科関係者なら気がついて当たり前だと思うんですけどね。
バス法って、あと少しの歯科関係者が「王様は裸だ!」と言い出せばあっという間に認識が変わると思っています。

(ご注意)
顕微鏡を使って治療をしたり、難しいインプラントなどの手術をなさる歯科医師の先生方は 自ら歯磨き指導をする時間が取れなくて、その分野は歯科衛生士の方々に担当していただいてると思うんです。ちゃんとしている歯科医院ほど役割分担がしっかりしているものです。
歯科医院のHPにバス法が載っているからといって、その歯科医院が良くないわけではありません。僕より優秀な方々がいっぱいいっぱい います。ただ、立派なHPのほんの一部の歯磨きの部分だけが どうなのよ? と思うだけです。

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(ホリエモンちゃんねる)